院長の云い分は、御子息さんの耳の方の処置は、自分に於いて最善を尽し、消毒等も完全にして執り行ったので、治療に手落ちがあったろうとは考えられない、して見れば御子息さんの脚の疾患と云うものは、耳の病気とは別の物である、御子息さんは御覧の通り耳の方は良くなられたのであるから、最早や当医院に入院しておられる必要はないのである、当医院に於いても他の部分に疾患のある方をお預かりして置いて万一のことがあってはならないと思うので、昨夜鈴木先生に処置を御依頼し、御承諾を得たような訳であるが、親御さん達の御決心が付きかねるとか云うことで大切な時間を空費した、既に今でも時機を失したかと思うのであるが、これ以上愚図々々しておられて大事になるようなことがあっても当医院は責めを負わない云々、と云うようなことで自分の越度は棚に上げて、いかにも親たちが躊躇していたために手後れになったかのような云い方をし、予防線を張っていたと云う。
老人夫婦は院長の云うことを唯はいはいと聴いて、それでは宜しくお願い申します、と挨拶して引き退ったのであるが、母親は部屋へ戻って来てから、院長に巧く云いくるめられたのは父親の罪ででもあるかのように口叱言を云っているのであった。
しかし幸子の見た通り、母親にしても悲歎の余りいろいろな愚痴が出るのだけれども、結局外科に引き渡さなければならないことは観念していたものらしく、それを切掛けに折れてしまった。