彼女のつもりでは、こいさんが板倉と実際に結婚するものなら已むを得ないけれども、今板倉が死んでしまうのなら、彼との間に約束があったことなどは世間に知れない方がよい、と云うことを、精々婉曲に云ったのであったが、妙子は大方言外の意味を了得したに違いなかった。
幸子は、この間から自分が何よりも苦に病んでいた問題、―――自分の肉身の妹が、氏も素姓も分らない丁稚上りの青年の妻になろうとしている事件が、こう云う風な、予想もしなかった自然的方法で、自分に都合よく解決しそうになったことを思うと、正直のところ、有難い、と云う気持が先に立つのを如何とも制しようがなかった。
人の死を希うような心が、自分の胸の奥の何処かに潜んでいると考えることは、不愉快でもあり浅ましくもあるけれども、どうやらそれは事実なのである。