敗血症とか、壊血病とか云うようなもんと違いますやろか」
幸子は、看護婦の「水戸ちゃん」がもうさっきから身支度をして待っていると云うので、彼女に会って四十日間の労を犒って暇を遣ってから、夫と雪子とで夕飯の卓を囲んだが、その最中に鈴木病院から電話が懸ったので立って行った。
貞之助たちが食堂で聞いていると、妙子と話しているらしく、なかなか長い電話であったが、手術が済んで目下のところは小康を保っていること、しかし輸血の必要が起りそうなので、老夫婦を除いて皆が血液型の検査を受けたこと、そうしたら病人と妹とがA型、妙子がO型であったこと、だからさし当りは妹の血を給血すればよいのであるが、なお一両人給血者がほしいのであること、妙子もO型であるから給血者の資格はある訳だけれども、それは親兄弟たちも敢て要求していないこと、ただここに困ったのは、妹の発議で、板倉の古い同僚である奥畑商店の店員二三人に事実を知らせてやることになったので、間もなくその人達が見える筈であること、自分はその人達に遇いたくないし、それに又、啓坊が聞き込んで一緒にやって来る可能性もあるので、彼との邂逅を避けるために一遍帰宅することにしたこと、それらの店員達は板倉の丁稚時代の旧友なので、妹は給血者を求める下心から彼等に知らせようと云い出したのであること、で、自分はひどく疲れているので、病院まで自動車を迎えに寄越して貰いたいこと、帰ったら直ぐ風呂に這入って御飯を食べられるよう、支度さしておいて欲しいこと、―――大体妙子の云っていることはそんなことであるらしく聞えた。