それに一つはその建物と云うのが、昔外人の邸宅だったのを直したものらしい、明治時代を偲ばせる旧式な洋館であったせいか、廊下の足音が高い天井に谺するような感じの、がらんとした、化物屋敷じみた病院で、妙子は一歩を中に蹈み入れた最初の瞬間に、何となく寒々とした、陰鬱な空気に襲われたことも事実であった。
病人は、手術後病室へ運ばれて、麻酔から覚めると、枕もとにいる妙子を見上げて、ああ、僕は跛足や!
と、悲痛な声を洩らしたが、それでも磯貝医院以来呻き続けてばかりいた病人が、尋常な物云いをしたのはその時が始めてであった。