私はここで、今では私の妻となっている彼女の為めに、「河合夫人」の名誉の為めに、強いて彼女の不機嫌を買ってまで、当時のナオミの身許や素性を洗い立てる必要はありませんから、成るべくそれには触れないことにして置きましょう。
後で自然と分って来る時もありましょうし、そうでないまでも彼女の家が千束町にあったこと、十五の歳にカフエエの女給に出されていたこと、そして決して自分の住居を人に知らせようとしなかったことなどを考えれば、大凡そどんな家庭であったかは誰にも想像がつく筈ですから。
いや、そればかりではありません、私は結局彼女を説き落して母だの兄だのに会ったのですが、彼等は殆ど自分の娘や妹の貞操と云うことに就いては、問題にしていないのでした。