私の勤め先が大井町でしたから、成るべくそれに便利な所を選ぼうと云うので、日曜日には朝早くから新橋の駅に落ち合い、そうでない日はちょうど会社の退けた時刻に大井町で待ち合わせて、蒲田、大森、品川、目黒、主としてあの辺の郊外から、市中では高輪や田町や三田あたりを廻って見て、さて帰りには何処かで一緒に晩飯をたべ、時間があれば例の如く活動写真を覗いたり、銀座通りをぶらついたりして、彼女は千束町の家へ、私は芝口の下宿へ戻る。
たしかその頃は借家が払底な時でしたから、手頃な家がなかなかオイソレと見つからないで、私たちは半月あまりこうして暮らしたものでした。
もしもあの時分、麗かな五月の日曜日の朝などに、大森あたりの青葉の多い郊外の路を、肩を並べて歩いている会社員らしい一人の男と、桃割れに結った見すぼらしい小娘の様子を、誰かが注意していたとしたら、まあどんな風に思えたでしょうか?