音楽の方は、これは全く私にはどうしたらいいか分りませんでしたが、二三年前に上野の音楽学校を卒業した或る婦人が、自分の家でピアノと声楽を教えると云う話を聞き、この方は毎日芝の伊皿子まで一時間ずつ授業を受けに行くのでした。
ナオミは銘仙の着物の上に紺のカシミヤの袴をつけ、黒い靴下に可愛い小さな半靴を穿き、すっかり女学生になりすまして、自分の理想がようようかなった嬉しさに胸をときめかせながら、せっせと通いました。
おりおり帰り途などに彼女と往来で遇ったりすると、もうどうしても千束町に育った娘で、カフエエの女給をしていた者とは思えませんでした。