が、晴れやかな唄ごえはなかなか止まずに、「サンタ・ルチア」は幾度となく繰り返され、それから「ローレライ」になり、「流浪の民」になり、ミニヨンの一節になりして、ゆるやかな船の歩みと共にいろいろ唄をつづけて行きます。
こういう経験は、若い時代には誰でも一度あることでしょうが、私に取っては実にその時が始めてでした。
私は電気の技師であって、文学だとか芸術だとか云うものには縁の薄い方でしたから、小説などを手にすることはめったになかったのですけれども、その時思い出したのは嘗て読んだことのある夏目漱石の「草枕」です。