それから再びシュレムスカヤ夫人の話、ダンスの話、語学の話、音楽の話、………ベトオヴェンのソナタが何だとか、第三シンフォニーがどうしたとか、何々会社のレコードは何々会社のレコードより良いとか悪いとか、私がすっかりしょげて黙ってしまったので、今度は女史を相手にしてぺらぺらやり出すその口ぶりから推察すると、このブラウン氏の夫人というのは杉崎女史のピアノの弟子ででもありましょうか。
そして私はこんな場合に、「ちょっと失礼いたします」と、いい潮時を見計って席を外すと云うような、器用な真似が出来ないので、この饒舌家の婦人の間に挟まった不運を嘆息しながら、否でも応でもそれを拝聴していなければなりませんでした。
やがて、髭のドクトルを始めとして石油会社の一団の稽古が終ると、女史は私とナオミとをシュレムスカヤ夫人の前へ連れて行って、最初にナオミ、次に私を、―――これは多分レディーを先にすると云う西洋流の作法に従ったのでしょう、―――極めて流暢な英語で以て引き合わせました。