その時分、私の月々の収入はもはや到底彼女の贅沢には追いつかなくなっていました。
元来私は金銭上の事にかけてはなかなか几帳面な方で、独身時代にはちゃんと毎月の小遣いを定め、残りはたとい僅かでも貯金するようにしていましたから、ナオミと家を持った当座は可なりの余裕があったものです。
そして私はナオミの愛に溺れてはいましたけれど、会社の仕事は決して疎かにしたことはなく、依然として精励恪勤な模範的社員だったので、重役の信用も次第に厚くなり、月給の額も上って来て、半期々々のボーナスを加えれば、平均月に四百円になりました。