私は二三度呼びましたが、返辞がないので、縁側へ上って障子を明けると、部屋はからッぽになっていました。
海水着だの、タオルだの、浴衣だのが、壁や、襖や、床の間や、そこらじゅうに引っかけてあり、茶器や、灰皿や、座布団などが出しッ放しになっている座敷の様子は、いつもの通り乱雑で、取り散らかしてはありましたけれど、何か、しーんとした人気のなさ、―――それは決して、つい今しがた留守になったのではない静かさがそこにあるのを、私は恋人に特有な感覚を以て感じました。
「何処かへ行ったのだ、………恐らく二三時間も前から、………」