私は疾うから、引っ越しの準備に頭を使っている一方、直覚的にナオミを怪しいと睨んでいたので、例の探偵的行動を少しも緩めずにいた結果、或る日彼女と熊谷とが、大胆にもつい大森の家の近所の曙楼で密会した帰りを、とうとう抑えてしまったのです。
その日の朝、私はナオミの化粧の仕方がいつもより派手であるのに疑いを抱き、家を出るなり直ぐ引っ返して裏口にある物置小屋の炭俵の蔭に隠れていたのです。
(そう云う訳でその頃の私は、会社を休んでばかりいました)すると果して、九時頃になった時分、今日は稽古に行く日でもないのに彼女はひどくめかし込んで出て来ましたが、停車場の方へは行かないで、反対の方へ、足を早めてさッさと歩いて行くのでした。