その日の朝、私はナオミの化粧の仕方がいつもより派手であるのに疑いを抱き、家を出るなり直ぐ引っ返して裏口にある物置小屋の炭俵の蔭に隠れていたのです。
(そう云う訳でその頃の私は、会社を休んでばかりいました)すると果して、九時頃になった時分、今日は稽古に行く日でもないのに彼女はひどくめかし込んで出て来ましたが、停車場の方へは行かないで、反対の方へ、足を早めてさッさと歩いて行くのでした。
私は彼女を五六間やり過してから大急ぎで家へ飛び込み、学生時代に使っていたマントと帽子を引き摺り出して洋服の上へそれを被り、素足に下駄穿きで表へ駈け出すと、ナオミの跡を遠くの方から追って行きました。