(そう云う訳でその頃の私は、会社を休んでばかりいました)すると果して、九時頃になった時分、今日は稽古に行く日でもないのに彼女はひどくめかし込んで出て来ましたが、停車場の方へは行かないで、反対の方へ、足を早めてさッさと歩いて行くのでした。
私は彼女を五六間やり過してから大急ぎで家へ飛び込み、学生時代に使っていたマントと帽子を引き摺り出して洋服の上へそれを被り、素足に下駄穿きで表へ駈け出すと、ナオミの跡を遠くの方から追って行きました。
そして彼女が曙楼へ這入って行き、それから十分ぐらい後れて熊谷がそこへやって来たのを確かに見届けて置いてから、やがて彼等の出て来るのを待ち構えていたのです。