まさか私の肉体がいくら頑健だからと云って、ほんの一時間やそこらの間に疲労が恢復し切った訳でもありますまいが、椅子に腰かけてほっと一と息ついたかと思うと、間もなく胸に浮かんで来たのは、さっきのナオミの、あの喧嘩をした時の異常に凄い容貌でした。
「男の憎しみがかかればかかる程美しくなる」と云った、あの一刹那の彼女の顔でした。
それは私が刺し殺しても飽き足りないほど憎い憎い淫婦の相で、頭の中へ永久に焼きつけられてしまったまま、消そうとしてもいっかな消えずにいたのでしたが、どう云う訳か時間が立つに随っていよいよハッキリと眼の前に現れ、未だにじーいッと瞳を据えて私の方を睨んでいるように感ぜられ、しかもだんだんその憎らしさが底の知れない美しさに変って行くのでした。