よく世間では、息子がだんだん大きくなり、郷里を捨てて都会へ出るようになってしまうと、親は何かと心配したり、その子の素行を疑ったり、或はそれが原因で疎遠になったりするものですが、私の母は、私が東京へ行ってから後も、私を信じ、私の心持を理解し、私の為めを思ってくれました。
私の下に二人の妹があるだけで、総領息子を手放すことは、女親としては淋しくもあり心細くもあったでしょうに、母は一度も愚痴をこぼしたことはなく、常に私の立身出世を祈っていました。
それ故私は、彼女の膝下にいた時よりも遠く離れてしまった時に、一層強く、彼女の慈愛のいかに深いかを感じたものです。