寧ろ気分が落ち着いて来ると、今度は前よりも一層明瞭に、一層執拗に、ナオミの肉体の細々した部分がじーッと思い出されました。
着換えをした時にちょいと着物の裾から洩れた足であるとか、息を吹っかけてくれた時につい二三寸傍まで寄って来た唇であるとか、そう云うものがそれらを実際に見せられた時より、却って後になって一と入まざまざと眼の前に浮かび、その唇や足の線を伝わって次第に空想をひろげて行くと、不思議や実際には見えなかった部分までも、あたかも種板を現像するようにだんだん見え出して、遂には全く大理石のヴィナスの像にも似たものが、心の闇の底に忽然と姿を現わすのです。
私の頭は天鵞絨の帷で囲まれた舞台であって、そこに「ナオミ」と云う一人の女優が登場します。