辰野は人も知る座談の雄であるが、私も彼に劣らないくらい話上手で、東京人特有の軽快なる弁舌を以て人を酔わせたり煙に巻いたりすることが得意であったし、警句を発し、諧謔を弄することも敢て人後に落ちはしなかった。
それがだん/\無口になったのは、物を書き始めてからであるが、無口になったために客嫌いになったのか、客嫌いになったために無口になったのかと言うと、多分客嫌い、―――云い換えれば交際嫌い、―――の方が先であったのだと思う。
創作家になったためになぜ交際嫌いになったのかと云うと、これにはいろ/\理由があるのだが、日本橋の下町に相場師の忰として育った私は妙な気取を持っていて、当時の文士藝術家と云われる人々の醸し出す田舎者臭い空気が嫌いであった。