その仕事の量を考えると、なか/\生きている間には片付きそうもないくらいあるので、私としては自分の餘生を傾けて、それをぽつ/\豫定表に従って片端から成し遂げて行くことが精一杯で、もうこれ以上人を知ったり世間を覗いたりする必要は殆どない。
他人に対して願うところはたゞ少しでも豫定の実行を狂わせたり、邪魔したりしてくれないように、と云うことに尽きる。
尤もこう云うと、さも勉強家のように聞え、寸陰を惜しんで始終仕事に熱中しているように聞えるかも知れないが、実際はそれの反対で、若い時から人並外れた遅筆家であった私は、老来種々なる生理的障害―――たとえば肩が凝るとか、眼が疲れるとか、神経痛で腕が痛むとか云ったような、―――が加わるに及んで、いよ/\その習性がひどくなり、原稿用紙一枚書くのにも、間で庭を散歩するとか座敷を歩き廻るとか云う合の手を入れなければ、根気が続かない有様なので、仕事中と云っても正味執筆している時間は割合に少く、ぼんやり休養している時間の方が遙かに多い。