厚い、大きな唇の、寧ろ鼻よりも前へ突き出て、酸漿を啣んでゐるやうに結ばれてゐるのは、今しがた酒を飮んだばかりで、おくびの出るのを我慢してゞもゐるのであらう。
一體、講中などに加はつてゐる婆さんに限つて、體の達者な、威勢のいゝ老人が多いものだが、此の婆さんもその例に洩れず、とん、とん、と踏む足拍子は、憎らしいほどシヤンとしてゐる。
三月半ばの、奈良のやうな氣候の土地ではまだ梅さへも蕾が固く、現に私など眞冬の外套を着てゐると云ふ黄昏時に、いくら踊つてゐるにしてもあの長襦袢一枚で寒いことはないだらうか。