私なども満面にニキビが出来てゐたので、「谷崎は近頃ニキビ並びがよくなつたね」なんかと云はれた。
が、何はともあれ、当時の私共、―――明治の末年に於ける文学青年や新進作家の生活振りは、今とは自ら様子の変つたところもあつて、想ひ出してみると中々面白い。
実は一遍機会があつたら、忘れないうちにあの時分のことを書いて置かうと思つてゐたのだが、幸ひ「中央公論」から随筆の依頼を受けたので、炎暑の折柄、成るべく肩の凝らないやうな、そして一般の読者諸君にも興味のあるやうな、花やかな事件や色つぽい場面をピツクアツプして、一とくさり昔噺をさせて貰ふことにする。