実は一遍機会があつたら、忘れないうちにあの時分のことを書いて置かうと思つてゐたのだが、幸ひ「中央公論」から随筆の依頼を受けたので、炎暑の折柄、成るべく肩の凝らないやうな、そして一般の読者諸君にも興味のあるやうな、花やかな事件や色つぽい場面をピツクアツプして、一とくさり昔噺をさせて貰ふことにする。
一体、東京からは傑出した人物があまり出てゐない。
鳩山文部大臣は東京人の政治家で将来を矚目されてゐるやうだけれども、今迄のところ、政界にも、軍人にも、実業界にも、生え抜きの江戸ツ児はさう幅を利かしてゐないやうだ。