私はそれがあの恋愛事件の動機であると云ふのでもないし、又さう云つたら故人の意志に反するでもあらうが、文学の方で失意の人となつた以上、実行の方面でわれ/\をあつと云はせてやらうと云ふやうな心持が、幾分潜在的にでも働いてゐなかつたとは断言出来ない。
それにはあの頃の「名妓」と云ふ言葉が持つ魅力を説明しないことには、到底今の青年諸君には合点が行かないかも知れない。
何しろ当時の藝者と云ふものは、上は貴顕搢紳から下はわれ/\のやうな文学青年に至る迄、士農工商あらゆる階級の男性の愛を惹きつける、唯一の浪漫的な存在であつた。