恐らくそんな事情でもなければ、彼がわざ/\その時分の私を訪ねることはなかつたであらうが、いくら疎遠になつたと云つても、そこは矢張旧友の情誼を信頼してゐてくれたのであらう。
今は差支へないと思ふから書くが、彼は勿論貧しい私の懐をアテにして来たのではなく、彼も一面の識があり、私とは因縁浅からざる偕楽園主人笹沼に話してみてくれないかと云ふのであつた。
私は笹沼がさう云ふ性質の、殊に分不相応の金を、融通する筈がないことを知つてゐたから、一往取り次ぐことは取り次いだけれども、さう熱心には口説かなかつたし、又笹沼も始めから取り合はなかつた。