兎に角、もう恒川の家に納まつてゐると云ふ一代の麗人に初見参をすべく、好奇心に胸を躍らせながら、精々めかし込んで出かけたらうことはお察しを願ひたい。
行つて見ると、二人は恒川の家にゐないで、そこから数丁を隔てた穏田の方にある、彼の義兄で当時政友会の代議士であつた風間礼助氏の邸に預けられてゐた。
私は彼の一家族とは古くから馴染みであつたし、いろ/\世話になつたこともあるので、先づ両親に会つて御不沙汰のお詫びをしたところ、母堂は私の顔を見ると、「いつたい陽一郎は何をあなたにお願ひに上つたんですか」と云ふやうな調子で、涙交りに愚痴を並べながら、此の結婚はどうしても許す訳に行かないと云ふのであつた。