それについては、たび/\例に引くことだけれども、鏡花先生の小説を引き請けた書肆が自然主義作家の一団からボーイコツトを食ひさうになつて、已むを得ず出版を中止したと云ふ事件なぞがあり、猫も杓子も自然主義的作品をさへ書いてゐれば認められると云ふ風で、「平家にあらざれば人にあらず」と云ふ如く、「自然主義者にあらざれば作家にあらず」の感があつた。
唯鴎外と漱石の両大家だけはさすがに時流に超然として、前者はをり/\揶揄の言辞を弄し、後者は全然文壇などを無視する態度に出たけれども、ために鴎外の歴史物は高等講談と云ふ悪罵を受け、漱石も亦、一般には広汎な読者を有するに拘はらず、文壇の中心勢力からは敬遠主義を取られてゐた。
人は失意に沈淪してゐると下らないことにも腹が立つもので、私は斯かる状勢に甚だしく憤慨した。