その頃「白樺」の同人やわれ/\の仲間の多くはまだ大学に通つてゐたが、長与善郎君なども教室に於ける後藤の態度に憤慨して、一遍彼奴を懲らしめてやらうと云ふことになつたらしく、或る日、後藤が赤門を出ようとするところを後から呼びとめて、「貴様、生意気だ」とばかり躍りかゝつた。
長与君は何しろ柔道何段と云ふ猛者であつたからたまらない、忽ち後藤は砂利の上に組み敷かれて拳骨を見舞はれ、カラーや眼鏡をふつ飛ばすと云ふ惨めな目に遭つた。
木村や私はその噂を聞いて、「彼奴たまには殴られた方がいゝんだよ」と手を叩いて痛快がつたが、以来長与君の武勇にはわれ/\も私かに恐れを成したものだつた。