分けても柳橋から代地河岸に至る色町は、不思議に甘い魅力を以て青年時代のわれ/\を惹き着けた。
一体柳橋と云ふところは、その頃の文人の詩情をそゝるものがあつたと見えて、独身時代の小山内薫氏、洋行前の島崎藤村氏なども、暫くあの辺の閑静な横丁に借家住まひをされたことがあり、帰朝後の永井荷風氏も、茶の湯や清元の稽古に通はれた時代に、矢張あの町の小意気な家に世を佗びながら、藝者屋と軒を並べて住んでをられた。
(あの時分の代地河岸の静かさは、まことに今日では想像も及ばない。
分けても柳橋から代地河岸に至る色町は、不思議に甘い魅力を以て青年時代のわれ/\を惹き着けた。
一体柳橋と云ふところは、その頃の文人の詩情をそゝるものがあつたと見えて、独身時代の小山内薫氏、洋行前の島崎藤村氏なども、暫くあの辺の閑静な横丁に借家住まひをされたことがあり、帰朝後の永井荷風氏も、茶の湯や清元の稽古に通はれた時代に、矢張あの町の小意気な家に世を佗びながら、藝者屋と軒を並べて住んでをられた。
(あの時分の代地河岸の静かさは、まことに今日では想像も及ばない。