その帽子と云ふのが、或る晩銀座を散歩すると、何処かの帽子屋のシヨウウインドウに変な恰好の帽子が出てゐたので、それから木村が思ひ付いて、すぐその帽子屋へ注文したのだつたが、山の浅い、鍔の恐ろしく広い、畳むと懐へ這入るやうな、柔かい、へら/\した天鵞絨で、而も色が紫と来てゐるんだから、西洋の道化役者だつて被りさうもない、なんとも不思議なものであつた。
同人中でも大貫などは辟易して拵へなかつたやうに思ふが、和辻、後藤、木村、私などは、確かにそれを被つて行つた覚えがある。
われ/\は定刻前に会場へ着いて、控へ室の隅に陣取りながら、次々に到着する先輩諸氏を待ち受けて、「あれは誰」「あれは誰」と云ふ風に囁き合つた。