私の記憶するいろ/\な文人の会合の中でも、此の第一回の「パンの会」は実に空前の盛会であつて、恐らく出席者の数は四五十名を下らなかつたであらう。
今一寸思ひ出しても、与謝野鉄幹、蒲原有明、小山内薫、永井荷風、石井柏亭、生田葵山、伊上凡骨、鈴木鼓村、木下杢太郎、久保田万太郎、江南文三、吉井、北原、長田兄弟、岡本一平、恒川陽一郎、………と、いくらでもその晩の顔ぶれを浮かべることが出来るが、先輩では小山内氏、同輩では自分たちの仲間を除いて、その他は殆ど初対面の人々ばかりが続々と詰めかけて来るのであつた。
そのうちに一人、痩躯長身に黒つぽい背広を着、長い頭髪をうしろの方へ油で綺麗に撫でつけた、二十八九歳の瀟洒たる紳士が会場の戸口へ這入つて来た。