そのうちに一人、痩躯長身に黒つぽい背広を着、長い頭髪をうしろの方へ油で綺麗に撫でつけた、二十八九歳の瀟洒たる紳士が会場の戸口へ這入つて来た。
彼はその顔の輪廓が俎板の如く長方形で頤の骨が張り、やゝ病的な青く浅黒い血色をし、受け口の口元にだだツ児みたいな俤を残してゐて、黒い服とひよろ高い身の丈とが、すつきりしてゐる反面に、何処かメフィストフェレスのやうな感じがしないでもなかつた。
「永井さんだ」と、誰かゞ私の耳の端で云つた。
そのうちに一人、痩躯長身に黒つぽい背広を着、長い頭髪をうしろの方へ油で綺麗に撫でつけた、二十八九歳の瀟洒たる紳士が会場の戸口へ這入つて来た。
彼はその顔の輪廓が俎板の如く長方形で頤の骨が張り、やゝ病的な青く浅黒い血色をし、受け口の口元にだだツ児みたいな俤を残してゐて、黒い服とひよろ高い身の丈とが、すつきりしてゐる反面に、何処かメフィストフェレスのやうな感じがしないでもなかつた。
「永井さんだ」と、誰かゞ私の耳の端で云つた。