と云ふのは、木村は前から先生を知つてゐたので、或る日彼が電話で先生と話してゐた時、その電話には受話器が二つ附いてゐたのを幸ひ、私はもう一つの受話器を取つて、余所ながら先生の声を「聞いた」ことはあつた)が、それからあと、誰が開会の辞を述べたか、どんなテーブル・スピーチがあつたか、そんなことは何も覚えてゐない。
唯私は宴が闌に及んだとき既に夥しく酔つ払つて、間もなくその辺を泳ぎ廻つてゐた。
私は会場に充満する濛々たる煙草の煙と、騒々しい人声の中をうろつきながら、誰彼の差別なく取つ掴まへては気焔を挙げた。