その頃のことだから勿論自動車などへは乗らない。
神保町から電車で芝の山内へ行つたのだが、瀧田君は吊り革にぶら下りながら、私の姿を見上げ見下ろして、「谷崎さん、今日はあなた、すつかり見違へましたね」と云ふのであつた。
それと云ふのが、私は紋附きの羽織がなかつたものだから、その晩の衣裳として偕楽園から頗る上等の羽織袴縞御召の二枚襲ね等一切を借用してゐた。
その頃のことだから勿論自動車などへは乗らない。
神保町から電車で芝の山内へ行つたのだが、瀧田君は吊り革にぶら下りながら、私の姿を見上げ見下ろして、「谷崎さん、今日はあなた、すつかり見違へましたね」と云ふのであつた。
それと云ふのが、私は紋附きの羽織がなかつたものだから、その晩の衣裳として偕楽園から頗る上等の羽織袴縞御召の二枚襲ね等一切を借用してゐた。