見るとそれは中村吉蔵君であつた。
私は名刺を戴いて懐に入れると、自分の名刺を中村君に呈したが、その名刺と云ふのが、漉きつ放しの日本紙へペン字の自署を石版刷りにした、悪く気取つたものだつた。
中村君は手持ち無沙汰で困つてゐる私に、「此の頃は何かお書きですか」などゝあの重い口で二た言三言尋ねてくれたけれども、私は此の古き「無花果」の作者、新帰朝後に「牧師の家」を書いて以来戯曲家として立つてゐる此の人とどんなことを話したか覚えがない。
見るとそれは中村吉蔵君であつた。
私は名刺を戴いて懐に入れると、自分の名刺を中村君に呈したが、その名刺と云ふのが、漉きつ放しの日本紙へペン字の自署を石版刷りにした、悪く気取つたものだつた。
中村君は手持ち無沙汰で困つてゐる私に、「此の頃は何かお書きですか」などゝあの重い口で二た言三言尋ねてくれたけれども、私は此の古き「無花果」の作者、新帰朝後に「牧師の家」を書いて以来戯曲家として立つてゐる此の人とどんなことを話したか覚えがない。