が、名乗りを上げて盃を廻すと、始めてニツコリして、「やあ、君だつたのか」と云ひながら、立ち上つて私の前へやつて来た。
「さつきからお辞儀をしてたんですが、さつぱりあなたが気がついてくれないものだから」と云ふと、「さうかい、そりやあ失敬した、だけども君はいつもと様子が違つてゐるね、暫く会はなかつた間にひどく変つたやうぢやないか、僕は盃をさゝれるまでは気が付かなかつたんだよ」と云ふ。
ところへ森田草平君が現れて、「谷崎君、谷崎君、君の笑ひ方はエロチツクに見えるぜ」と大きな声でみんなに聞えるやうに云つた。