「さつきからお辞儀をしてたんですが、さつぱりあなたが気がついてくれないものだから」と云ふと、「さうかい、そりやあ失敬した、だけども君はいつもと様子が違つてゐるね、暫く会はなかつた間にひどく変つたやうぢやないか、僕は盃をさゝれるまでは気が付かなかつたんだよ」と云ふ。
ところへ森田草平君が現れて、「谷崎君、谷崎君、君の笑ひ方はエロチツクに見えるぜ」と大きな声でみんなに聞えるやうに云つた。
しかし私には、さう云ふ森田君の、色の蒼白い卵なりの顔、―――取り分けその頬のあたりと口元とが、甚だエロチツクに感ぜられた。