かうと知つたら笹沼の紋附きを借りて来るのではなかつたのに、全く千慮の一失であつた。
私は八方から盃を貰ひ、いろ/\の人から讃辞や激励の言葉を浴びせられ、次第に有頂天になつて、瀧田君を促しつゝ徳田秋声氏の前へ挨拶に行つた。
と、秋声氏は、其処へ蹣跚と通りかゝつた痩せぎすの和服の酔客を呼び止めて、「泉君、泉君、いゝ人を紹介してやらう―――これが谷崎君だよ」と云はれると、我が泉氏ははつと云つてピタリと臀餅を舂くやうにすわつた。
かうと知つたら笹沼の紋附きを借りて来るのではなかつたのに、全く千慮の一失であつた。
私は八方から盃を貰ひ、いろ/\の人から讃辞や激励の言葉を浴びせられ、次第に有頂天になつて、瀧田君を促しつゝ徳田秋声氏の前へ挨拶に行つた。
と、秋声氏は、其処へ蹣跚と通りかゝつた痩せぎすの和服の酔客を呼び止めて、「泉君、泉君、いゝ人を紹介してやらう―――これが谷崎君だよ」と云はれると、我が泉氏ははつと云つてピタリと臀餅を舂くやうにすわつた。