私は紅葉門下の二巨星の間に挟まつて、真に光栄身に余る気がした。
殊に秋声氏の態度には、後進を労はる老藝術家の温情がにじみ出てゐるやうに覚えた。
けれども残念なことには、泉氏はもうたわいがなくなつてゐて、「あゝ谷崎君、―――」と云つたきり、酔眼朦朧たる瞳をちよつと私の方へ向けながら、受け取つた名刺を紙入れへ収めようとされた途端に、すうつとうしろへ仰け反つてしまはれた。
私は紅葉門下の二巨星の間に挟まつて、真に光栄身に余る気がした。
殊に秋声氏の態度には、後進を労はる老藝術家の温情がにじみ出てゐるやうに覚えた。
けれども残念なことには、泉氏はもうたわいがなくなつてゐて、「あゝ谷崎君、―――」と云つたきり、酔眼朦朧たる瞳をちよつと私の方へ向けながら、受け取つた名刺を紙入れへ収めようとされた途端に、すうつとうしろへ仰け反つてしまはれた。