殊に秋声氏の態度には、後進を労はる老藝術家の温情がにじみ出てゐるやうに覚えた。
けれども残念なことには、泉氏はもうたわいがなくなつてゐて、「あゝ谷崎君、―――」と云つたきり、酔眼朦朧たる瞳をちよつと私の方へ向けながら、受け取つた名刺を紙入れへ収めようとされた途端に、すうつとうしろへ仰け反つてしまはれた。
「泉は酔ふと此の調子で、何も分らなくなつちまふんでね」と、秋声氏は気の毒さうに執り成された。
殊に秋声氏の態度には、後進を労はる老藝術家の温情がにじみ出てゐるやうに覚えた。
けれども残念なことには、泉氏はもうたわいがなくなつてゐて、「あゝ谷崎君、―――」と云つたきり、酔眼朦朧たる瞳をちよつと私の方へ向けながら、受け取つた名刺を紙入れへ収めようとされた途端に、すうつとうしろへ仰け反つてしまはれた。
「泉は酔ふと此の調子で、何も分らなくなつちまふんでね」と、秋声氏は気の毒さうに執り成された。