「先生、谷崎潤一郎君を連れて来ました」と、瀧田君が云ふと、翁は眼鏡越しにじつと私の顔を見守つて、先づほうつと長大息するやうな素振を示され、「ふうん、あなたが谷崎さんですか、さうですか、そりやあどうも、………お若いのにどうも、………よくあゝ続けて後から後からと傑作ばかりがお書けになれるもんですな。
いや、全く、出るものも出るものも素晴らしい傑作ばかりであるとは、実に敬服の至りですな」と、気味の悪い程お世辞を云はれるのであつた。
それがなんだか余り空々しく聞えるので、私は「此奴、狸め」と思つた。
「先生、谷崎潤一郎君を連れて来ました」と、瀧田君が云ふと、翁は眼鏡越しにじつと私の顔を見守つて、先づほうつと長大息するやうな素振を示され、「ふうん、あなたが谷崎さんですか、さうですか、そりやあどうも、………お若いのにどうも、………よくあゝ続けて後から後からと傑作ばかりがお書けになれるもんですな。
いや、全く、出るものも出るものも素晴らしい傑作ばかりであるとは、実に敬服の至りですな」と、気味の悪い程お世辞を云はれるのであつた。
それがなんだか余り空々しく聞えるので、私は「此奴、狸め」と思つた。