今考へてもヒヤリとするのは、当時「スバル」の編輯をしてゐた江南文三君が或る号の編輯記事に「今月は蓮の実を食ひ過ぎて物忘れをした」と書いてゐたのを指摘されて、「私はあれを読んで、江南君は英文学者だ、エライことを云ふと思つたよ」と、さう云ひながらジロリと私たちを横眼で見られた。
私は後年テニソンを愛読するやうになつて始めて「ロータスイータース」の由来を知つたが、敏先生に云はれた時は何で江南君が英文学者なのか皆目分らなかつたので、矢張ニヤニヤ笑つて胡麻化してしまつた。
しかし此の外には、先生の話題は主として世間話であつて文学談らしいものは殆どなかつた。