此の最後の話のとき、「先生の御家庭ではお子さん達が京都弁を使ふやうにおなりになりはしませんか」と、私は始めて当り障りのない質問の機会を掴んだ。
すると先生は、「いや、それだけは厳重に警戒してゐます」と、潔癖らしくキツパリと云はれた。
それともう一つ、都会と田舎の風俗の比較が出たときに、「田舎の方が純樸だと云ひますけれども、若い男女の堕落するのは田舎者に多いやうに思ひますが」と云ふと、先生は私を顧みて、「それを私も云ひたかつたんだ」とさも我が意を得たやうに頷かれ、「都会の教養を受けた者の方が社会の裏面を知つてゐるだけに却つて誘惑にかゝらないと云ふのが私の持論なんだ」と云はれた。