そんなことでどうやら私もお茶を濁して一二時間お邪魔をして引き退つたが、その後幹彦君と私とは日を改めて先生の招待を受け、南禅寺の瓢亭で夕飯を戴くことになつた。
これは最初の訪問の日にさう云ふお話があつたのか、あとから御通知を受け取つたのか覚えてゐないが、幹彦君も私もまだやう/\売り出したばかりの、云はゞ文壇のルンペンにも等しい若輩に過ぎなかつたのに、大学教授たる先生がそのわれ/\を一流の旗亭に招き、特に一夕の時間を割いて下すつたと云ふことは、余程破格の御好意であつたと思はれる。
察するところ先生も亦当時の文壇の風潮に慊らず、自然主義に反抗して起つたわれ/\を大いに激励して下さるつもりだつたのであらう。