先生のやうに常識の発達した、儀礼を重んずる先輩の前へ出ては、後輩の方から羽目を外して打つかつて行かなければ中々応酬に活気が生ずるものではない。
先生も何とかして遠慮の垣を取り除けようと努めて下さる様子であつたが、われ/\は張合ひのない受け答へをしながら、座が白けると黙つてムシヤムシヤ御馳走を摘まみ、手持ち無沙汰に酒ばかり飲んでゐた。
たゞ、未だに耳朶に残つてゐるのは、宴が八分通り済んでこの折角の会合も平凡な終りを告げようとするとき、「さういつも/\クラフトエビングのやうなものばかり書いてゐないでね」と、突如として洩らされた一言であつた。