なんでもあれから一ヶ月ばかり過ぎて、たしか五月の末頃に、一度先生は私の留守中に宿を訪ねて下すつたことがあつて、これにはずべらな私共もひどく恐縮してしまつたが、われ/\の来訪を心待ちにせられた先生が、待つても待つても顔を見せないのにシビレを切らせて、自分の方から立ち寄つて下すつた心持が、今になると実によく分る。
きつと先生は、此方からわざ/\訪ねてやれば二人が慌てゝ飛んで来るに違ひないと思はれたのであらうが、そんなにして戴いてもとう/\われ/\は御挨拶にも上らなかつた。
それは先生が煙つたいとかギゴチないとか云ふよりも、たゞもう無意味な怠け癖の結果であつた。