余談ながら、当時の文学青年の間では一時神経衰弱症が大流行であつたことを、此処で一言しておきたい。
尤も、若い者が不眠症に罹つたり煩悶病に憑かれたりするのは有りがちのことで、われ/\の一と時代前にも、藤村操流の厭世観が一世を風靡して自殺や心中が讃美されたことがある。
が、あの時分のは、あの「巌頭の感」の文章が示してゐるやうに、何処か甘つたるい、センチメンタルなものであつて、恐らくシヨオペンハウエルや仏教哲学などの影響を受けてゐたのであらうが、われ/\の時代の神経衰弱は、もつと世紀末的な、廃頽的なものであつた。