尤もさう云へば、汽車に乗るについては往年の恐怖の記憶があつたので、いくらか用心する気になつて、当時は既に急行車が出来てゐたにも拘はらず、恐くなつたら何処でゞも降りられるやうに普通車を選び、名古屋で一と晩泊つたりして、警戒しながら来たのであつたが、案ずる程のこともなく、完全に愉快な旅を続けた。
私は汽車の窓から沿道の春景色を眺めながら、いかにあの頃の病癖が滑稽至極なものであつたかを想ひ浮かべ、強健な神経を取り戻した今の我が身を祝福した。
私は、二日間の汽車旅行の結果を見てすつかり安心した訳であつた。