「あ、それから、どうも時々理由のないことに恐怖を覚えたりしましてね」―――私は軽く、附け加へるやうな口調で云つたものだが、「はあ、はあ」と代診も職業的に受け流しながら、機械的にペンを走らせて、「時々恐怖感アリ」などゝ、備考の欄に書き入れた。
が、いよ/\順番が近づいたと思ふと、動悸が激しく打ち始めた。
私の前にまだ二三人残つてゐた患者が、一人減り二人減りして最後の一人になつた時、私はます/\強く打ち出した心臓の鼓動を抑へて、蒼惶として階段を駈け下り、夢中で戸外へ逃げてしまつた。
「あ、それから、どうも時々理由のないことに恐怖を覚えたりしましてね」―――私は軽く、附け加へるやうな口調で云つたものだが、「はあ、はあ」と代診も職業的に受け流しながら、機械的にペンを走らせて、「時々恐怖感アリ」などゝ、備考の欄に書き入れた。
が、いよ/\順番が近づいたと思ふと、動悸が激しく打ち始めた。
私の前にまだ二三人残つてゐた患者が、一人減り二人減りして最後の一人になつた時、私はます/\強く打ち出した心臓の鼓動を抑へて、蒼惶として階段を駈け下り、夢中で戸外へ逃げてしまつた。