そう云えば北側で、日あたりの悪い、陰気な室を択んだところは先生らしい、―――と、記者がそんなことを考えているとたんに、ガチャン、ガチャンと、吸上ポンプで井戸の水を汲む音がした。
ハテ、と思ってそっちを見ると、井戸端にしゃがみながら、十五六の小女が寝間着のまゝで歯を研いている。
小女は楊枝を使ってしまうと、金盥へ水を取って、タオルでぞんざいに顔を洗ったが、それなり台所の方へは行かずに、すた/\と此方へ歩いて来て、裏庭へ降りるドーアを開けて、紅い鼻緒のぴたんこな下駄を石の階段の上へ脱ぎ捨て、ついと書斎の中へ這入った。