その前彼は、三毛猫を一度、それが死んでからは「クロ」と呼んでいた真っ黒な雄猫を、コック場で飼っていたのであるが、そこへ出入の肉屋から、欧洲種の可愛らしいのがいるからと云って、生後三ヶ月ばかりになる雌の仔猫を貰ったのが、リリーだったのである。
それで暇を貰う時にもクロはコック場へ置いて来てしまったが、仔猫の方は手放すのが惜しくて、行李と一緒に或る商店のリヤカーの隅へ積んで貰って、蘆屋の家へ運んだのであった。
肉屋の主人の話だと、英吉利人はこう云う毛並みの猫のことを鼈甲猫と云うそうであるが、茶色の全身に鮮明な黒の斑点が行き亙っていて、つやつやと光っているところは、成る程研いた鼈甲の表面に似ている。